「うっかりの申告漏れ」と「重加算税」の間には、条文と判例が引いた線があります。
国税通則法68条の要件を共通事項として整理した上で、
相続税と法人税それぞれの調査で問題になる行為を、公表裁決に基づくケースで確認します。
重加算税は、「隠蔽」または「仮装」という不正な手段が使われたときだけ課される加算税です(国税通則法68条)。
申告漏れの金額が大きいこと、税法を知らなかったこと、確認を怠ったことは、それ自体では重加算税の理由になりません。
それらは過少申告加算税(無申告加算税)の世界です。
要件は3つで、①納税者が、②課税標準等または税額等の計算の基礎となる事実の全部または一部を隠蔽し、または仮装し、③その隠蔽・仮装したところに基づいて申告書を提出した(無申告の場合は、法定申告期限までに提出しなかった)ことです。
税率は、過少申告に代わるものが35%、無申告に代わるものが40%、不納付(源泉)に代わるものが35%で、
過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合はさらに10%が加算されます。
過少申告そのものとは別に、隠蔽・仮装と評価できる行為が必要です(最高裁平成7年4月28日判決)。
財産や売上の存在を認識していたことは、要件の入口にすぎません。
架空名義や二重帳簿がなくても、当初から過少申告を意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動(税理士への秘匿・虚偽説明など)をした上で申告すれば、要件を満たします(同判決)。
隠蔽・仮装の行為を故意に行い、それを原因として過少申告の結果が生じていれば足り、
「過少申告になる」という認識までは要件ではありません(最高裁昭和62年5月8日判決)。
同じ修正申告の中でも、隠蔽・仮装に基づく増差税額には35%、それ以外の増差税額には過少申告加算税10%(15%)が課されます(通則法68条1項、同法施行令28条)。
税理士・家族・従業員の隠蔽仮装は、納税者本人がそれを認識し、または容易に認識でき、是正できたのに防止しなかった場合などに限り、本人の行為と同視されます(最高裁平成18年4月20日判決)。
判断の基準時は法定申告期限です。
調査での虚偽答弁や証拠隠滅は、それ自体で要件を満たすのではなく、申告時の意図を推認する間接事実として使われます。
「申告漏れが見つかった=重加算税」ではありません。
国税庁の統計でも、相続税の実地調査で非違があった事案のうち重加算税が課されたのは約13〜15%(令和4〜6事務年度)、
法人税の実地調査で不正計算があった割合は22〜24%(令和5・6事務年度)です。
大半の申告漏れは過少申告加算税で終わっています。
逆に、「うちは架空の帳簿など作っていないから大丈夫」も誤りで、税理士に対して財産や取引の存在を否定する、資料を出さないといった行為が「特段の行動」と評価されて重加算税に至った裁決は多数あります。
重加算税は独立した加算税ではなく、過少申告加算税・無申告加算税・不納付加算税に「代えて」課されるものです。
したがって、まず過少申告加算税などの要件に該当することが前提になります。
| 場面 | 通常の加算税 | 重加算税(代えて課される) | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 期限内に申告したが過少だった | 過少申告加算税 10% (期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%) | 35% | 通則法65条・68条1項 |
| 期限内に申告しなかった | 無申告加算税 15% (50万円超300万円以下は20%、300万円超は30%) | 40% | 通則法66条・68条2項 |
| 源泉所得税を納期限までに納付しなかった | 不納付加算税 10% | 35% | 通則法67条・68条3項 |
| 過去5年以内に同じ税目で無申告加算税または重加算税を課されたことがある | 無申告加算税に+10%(66条6項1号) | +10%(最大45%・50%) | 通則法68条4項1号 |
| 前年・前々年にも無申告加算税または無申告重加算税を課されている(無申告の場合のみ) | 無申告加算税に+10%(66条6項2号) | +10% | 通則法68条4項2号 (令和6年1月1日以後の法定申告期限分から) |
令和4年度・令和5年度改正で加算税の加重措置が増えましたが、次のものは過少申告加算税・無申告加算税の側の措置であり、重加算税が課される部分には重ねて適用されません。
ただし、同じ修正申告のうち隠蔽・仮装のない部分に課される過少申告加算税には、65条4項の帳簿不提示の加重が及び得ます。
また重加算税の側では、68条4項の10%加重と電子帳簿保存法8条5項の10%加重が重なることがあります。
令和6年度改正により、隠蔽・仮装した事実に基づいて「更正の請求書」を提出した場合も重加算税の対象に加わりました(通則法68条1項・2項。令和7年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から適用)。
従来は、更正の請求で虚偽の内容を記載しても重加算税は課せませんでした。
「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行なうことを要するものと解すべきである。
和歌山地裁昭和50年6月23日判決(税務訴訟資料82号70頁)。国税不服審判所の裁決も同旨の定義を一貫して用いています。条文上の表記は、平成28年の改正以降「隠ぺい」ではなく「隠蔽」です。
事務運営指針の現行版も「隠蔽」表記になっています。
加算税の納税義務は法定申告期限の経過時に成立します(通則法15条2項14号)。
重加算税は、納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われた場合に、違反者に対して課される行政上の措置であって、故意に納税義務違反を犯したことに対する制裁ではないから、(略)納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない。
最高裁昭和62年5月8日第二小法廷判決(訟務月報34巻1号149頁)整理すると、「架空の請求書を作った」という行為自体の認識は必要ですが、
「それで税金が減る」という認識や脱税の目的までは要件ではありません。
重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、(略)架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。
最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決(民集49巻4号1193頁)この事案は所得税ですが、納税者が多額の株式売買益を申告すべきことを知りながら、
顧問税理士から株式売買の有無を毎年質問され資料の提出を求められたのに「ない」と答え、
他の所得の資料は渡しつつ株式取引の資料は一切示さず、税理士に過少な申告書を作らせたものです。
架空名義も隠し口座もありませんでした。
この判決以降、相続税の裁決では「当初から相続財産を過少に申告することを意図し」と読み替えて適用されており、
税理士に対する秘匿・虚偽説明が重加算税の中心的な論点になっています。
真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定しつつ、会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出した場合は、重加算税の賦課要件を満たす。
最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決(民集48巻7号1379頁)の判示の要旨帳簿は正しく作られているのに、申告書にはその一部だけを書くという類型です。
他方で、過少な申告書類(試算表・収支内訳書)を作成しただけでは「申告行為そのもの」であり、
それとは別の隠蔽仮装行為が必要だとした裁決もあり、殊更に過少と言えるだけの規模・意図・事後工作の予定が要求されます。
納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、重加算税を賦課することができる。(略)他方、当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。
最高裁平成18年4月20日第一小法廷判決(民集60巻4号1611頁)重加算税は「隠蔽・仮装したところに基づき申告書を提出していたとき」に課されるため、
隠蔽・仮装は法定申告期限までに存在していることが必要です(東京地裁平成22年5月14日判決ほか)。
調査時に虚偽の答弁をした、証拠を捨てたという事実は、それ自体で要件を満たすのではなく、
申告時点で秘匿の意図があったことを推認する材料として、他の事実と総合して評価されます。
実務上の含意 調査で指摘された後に事実と異なる説明をすると、申告時の意図を裏付ける方向に働きます。
逆に、指摘後に速やかに事実を認めて修正申告に応じたことが、「当初から秘匿する態度を貫こうとしたとはいえない」として重加算税の取消しにつながった裁決もあります(相続税・平成28年3月30日裁決、平成28年4月25日裁決)。
調査で申告漏れを指摘されたとき、重加算税に至るかどうかは、おおむね次の順序で判断されます。
相続税・法人税の各タブのケースは、この順序に当てはめて読んでください。
調査通知の前に自主的に修正申告した場合、過少申告加算税は課されません(通則法65条6項)。
調査通知の後、更正を予知する前の修正申告は過少申告加算税5%で、重加算税の除外規定(68条1項括弧書き)は「調査通知」ではなく「更正の予知」で線を引いているため、この段階でも重加算税は課されないと読めます。
更正を予知した後は、過少申告加算税10%(15%)または重加算税35%です。
無申告の場合も同じ構造で、調査通知前の期限後申告は5%、予知前は10%、予知後は15%(20%・30%)または重加算税40%となります。
「更正を予知」したかどうかは、事務運営指針(法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて)では、
臨場調査・反面調査・申告書の内容検討による非違の指摘などによって調査があったことを知った後の修正申告は原則として予知に該当し、
臨場日時の連絡があった段階での修正申告は原則として該当しない、とされています。
35%・40%という税率そのものに加えて、次の派生的な効果があります。
担当者が相談者に説明するときは、この連動をまとめて示すことが大切です。
| 効果 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 延滞税の控除期間がなくなる | 通常は法定申告期限から1年を経過した後の期間は延滞税の計算から除かれますが、「偽りその他不正の行為」により税を免れた場合はこの特例が適用されず、全期間分の延滞税がかかります。 運用上、重加算税が課された場合がこれに該当するものとして扱われます。 | 通則法61条1項 |
| 更正・決定の期間が7年になる | 通常は法定申告期限から5年ですが、「偽りその他不正の行為」による場合は7年。 重加算税の「隠蔽・仮装」と要件は同一ではありませんが、重なることが多いとされます。 | 通則法70条5項1号 |
| 次回以降の加算税が重くなる | 5年以内に再び無申告加算税・重加算税の対象になると10%加重。 | 通則法68条4項 |
| 配偶者の税額軽減が使えなくなる(相続税) | 配偶者が行った隠蔽仮装行為に基づく財産は、配偶者の税額軽減の計算から除かれます。 | 相続税法19条の2第5項・6項 |
| 青色申告の承認が取り消される(法人税) | 不正所得金額が更正所得金額の50%超かつ500万円以上などの基準に該当すると取消し。 欠損金の繰越し等の特典を失います。 | 法人税法127条1項3号、青色申告承認取消しの事務運営指針 |
| 消費税・源泉所得税に連動する(法人税) | 法人税の不正事実が影響する消費税の増差税額にも重加算税。 認定賞与に係る源泉所得税は、法人税側で重加算税の対象となった所得金額に達するまでは不納付加算税にとどめる調整があります。 | 消費税・源泉所得税の各事務運営指針 |
| 刑事罰とは別 | 重加算税は行政上の措置であり、ほ脱犯(相続税法68条、法人税法159条)としての刑事罰と併科されても二重処罰にはならないとされています。 | 最高裁大法廷昭和33年4月30日判決 |
重加算税の要件事実(隠蔽・仮装行為の存在、当初からの意図、特段の行動)の立証責任は課税庁にあります。
審査請求では、原処分庁が裏付ける証拠を提出できず、審判所の調査でも認められないとして取り消された裁決が多数あります。
相続税・法人税とも、隠蔽・仮装を直接証明する書類が残っていることは少なく、
実際には次のような間接事実の積み上げで「意図」が立証されます。
重加算税の賦課決定は不利益処分であり、通知書には隠蔽・仮装に当たる具体的な事実を記載する必要があります(通則法74条の14第1項により行政手続法14条が適用されます)。
理由の記載が不十分な場合は取消事由になり得るため、通知書を受け取ったら「どの事実が隠蔽・仮装とされたのか」を確認することが最初の点検事項になります。
税理士が隠蔽・仮装に関与し、または容認した場合は、納税者の重加算税とは別に、税理士法上の脱税相談等の禁止(税理士法36条)に違反するものとして懲戒処分(同法45条)の対象になります。
調査後に税理士専門官へ情報が回る運用もあり、担当者としては、納税者から相談を受けた段階で事実の確認と正しい申告への誘導を記録に残しておくことが重要です。
| 税目 | 指標 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|---|
| 相続税 | 実地調査件数 | 8,556件 | 9,512件 |
| 非違件数(非違割合) | 7,200件(84.2%) | 7,826件(82.3%) | |
| 重加算税賦課件数(非違件数に対する割合) | 971件(13.5%) | 1,065件(13.6%) | |
| 法人税 | 実地調査件数 | 約5万9千件 | 約5万4千件 |
| 不正計算があった件数 | 約1万3千件 | 約1万3千件 | |
| 不正発見割合(調査件数に対する割合) | 22.3% | 23.5% |
出典:国税庁「令和5事務年度・令和6事務年度における相続税の調査等の状況」「令和5事務年度・令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」。
法人税では「重加算税の賦課割合」という統計は公表されておらず、「不正計算(隠蔽・仮装)があった件数」の割合が代替指標です。
相続税の重加算税は、「名義預金の存在を知っていたのに申告しなかった」だけでは課されません。
分かれ目は、税理士からの質問や資料要求に対して積極的に否定・秘匿したか、
預金の解約・預け替えなど発見を困難にする行動をとったか、調査で一貫して否認し続けたか、です。
相続税では法人税と違い、帳簿の改ざんのような積極的な工作が問題になることは少なく、
ほとんどの事案が最高裁平成7年4月28日判決の「特段の行動」の枠組みで争われます。
そのため、税理士が具体的に何を質問し、相続人がどう答えたかの記録が、結論を左右します。
また重加算税は相続人ごとに判定され、他の相続人の隠蔽は、委任関係がなければ及びません。
「その預金は名義預金(被相続人の財産)か」という帰属の認定と、「相続人がそれを隠蔽したか」は別の判断です。
名義預金と認定されても、隠蔽が立証されなければ過少申告加算税です。
税理士から名義預金や生前贈与の有無を具体的に質問され、資料を求められたのに「ない」と答えた、残高証明書を渡さなかった、という行為は、それ自体が特段の行動と評価されます。
税理士が具体的な確認をしていなかった、既に資料を持っていると思った、失念した可能性が否定できない場合は、重加算税が取り消されています。
被相続人が生前に作った他人名義・無記名の財産を、相続人がその状態を認識して利用し、申告から除外した場合は、相続人自身の隠蔽と評価されます(事務運営指針第1の1(5))。
無記名預金を管理していた相続人には該当し、その存在を知らなかった他の相続人には該当しないとした裁決があります。
一方、申告手続を一任していた相続人には受任者の隠蔽が及びます。
配偶者が行った隠蔽仮装行為に基づく財産は、配偶者の税額軽減の対象から除かれます(相続税法19条の2第5項)。
35%の重加算税に加えて、軽減の喪失が大きな負担になります。
「相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日課資2-263ほか、最終改正令和5年6月23日)は、相続税について次の5類型を「不正事実」として掲げています。
行為の主体は「相続人等」=相続人本人と、相続人から遺産の調査・申告等を任せられた者です。
| 号 | 不正事実の内容(要旨) | 典型例 |
|---|---|---|
| (1) | 相続人等が、契約書・請求書・領収書その他財産に関する書類について、改ざん・偽造・変造・虚偽の表示・破棄・隠匿をしていること | 葬式費用の領収書の水増し、贈与契約書の後日作成、通帳の廃棄 |
| (2) | 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、または事実をねつ造して課税財産の価額を圧縮していること | 現金・貴金属の隠匿、実在しない借入金の計上 |
| (3) | 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀して、それらの者の帳簿書類について改ざん・偽造・変造・虚偽の表示・破棄・隠匿を行わせていること | 金融機関・不動産業者に虚偽の書類を作らせる |
| (4) | 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い、または関係者に虚偽の答弁を行わせていること、およびその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながら申告していないことなどが合理的に推認し得ること | 調査での虚偽答弁+申告時の認識を示す他の事実 |
| (5) | 相続人等が、取得した課税財産について、被相続人名義以外の名義・架空名義・無記名であったこと、遠隔地にあったこと、架空の債務がつくられていたことなどを認識し、その状態を利用して申告していないこと | 被相続人が作った家族名義預金の除外、無記名債券の除外 |
(4)は、虚偽答弁だけで足りるという意味ではなく、「その他の事実関係を総合的に判断して」申告時に課税財産の存在を知っていたことが合理的に推認できることを求めています。
(5)は、被相続人が作出した隠蔽状態を相続人が「認識し、その状態を利用して」申告しない類型で、名義預金事案の中心的な根拠になります。
被相続人が生前に子や配偶者の名義で預金を作っていた事案で、相続人がそれを申告に含めなかった場合、
審判所は一貫して、①相続人が財産の存在(と被相続人への帰属)を認識していたことに加え、
②当初からの過少申告の意図と、③それを外部からうかがわせる特段の行動、を要求しています。
| 結論 | 事実関係の特徴 | 裁決 |
|---|---|---|
| 重加算税を認めた | 被相続人名義預金の存在を承知の上、税理士に一度は金額を含めて税額計算させた後、税理士から資料提示を求められると残高証明書等を所持していたのに「ない」と回答 | 平成10年12月18日裁決 |
| 重加算税を認めた | 相続開始直後に被相続人名義の定額郵便貯金を複数の郵便局で解約し、新設した相続人名義口座に預入。申告済みの貯金額と一致する金額だけを相続財産管理口座に移し、調査時にも存在を否定 | 平成11年5月18日裁決 |
| 重加算税を認めた | 投資信託の取引残高報告書を受け取り、残高証明書を税理士に渡す機会が複数回あったのに渡さず、提出資料が相続財産のすべてであるかのように装った。「税理士に対して必要資料等を秘匿した場合も特段の行動に当たる」と説示 | 平成18年11月16日裁決 |
| 重加算税を認めた | 子名義の定期預金11口を相続財産と認識しながら税理士に告げず、遺産分割協議書にも記載せず、調査でも「生前贈与済み」と根拠のない申述で隠蔽の態度を貫こうとした | 平成27年10月2日裁決 |
| 取り消した | 無記名定期預金を管理していた相続人は要件を満たすが、その存在を了知していなかった他の相続人には課せない | 昭和62年7月6日裁決 |
| 取り消した | 被相続人名義株式の存在を認識していたと推認されるが、税理士が資料を既に所持していたため提出不要と考えた可能性、申告書案に記載されていると誤認した可能性を否定できず、虚偽答弁の証拠もない | 平成23年5月11日裁決 |
| 取り消した | 複数の預貯金のうち1口だけ残高証明書を取得せず会計事務所に伝えなかったが、誤解・失念の可能性を否定できない | 令和4年5月10日裁決 |
| 取り消した | 株式の銘柄を記したノートを税理士に渡さなかったが、税理士の指示どおり証券会社の残高証明書を取得・提出しており計上済みと思い込んだ可能性がある。ノートは調査時に自ら提出 | 令和4年6月24日裁決 |
①税理士が具体的に質問・資料要求をしていたか。
②相続人がそれに対して積極的に否定・虚偽の回答をしたか、単に伝えなかっただけか。
③誤解・失念の可能性を合理的に説明できるか(金融機関の説明、既提出資料との重複など)。
④解約・預け替え・金額合わせなど、発見を困難にする行動がなかったか。
⑤調査で指摘された後、直ちに認めたか、否認し続けたか。
被相続人自身が生前に財産を他人名義・無記名にしていた場合、その行為は相続人の行為ではありません。
しかし裁判例は、相続人がその隠蔽された状態を認識し、それを利用して申告から除外した場合も重加算税の対象になるとしています。
相続人又は受遺者が積極的に右の隠ぺい、仮装の行為に及ぶ場合に限らず、被相続人又はその他の者の行為により相続財産の一部等が隠ぺい、仮装された状態にあり、相続人又は受遺者が右の状態を利用して、脱税の意図の下に隠ぺい、仮装された相続財産の一部を除外する等した内容虚偽の相続税の申告書を提出した場合も含むと解するのが相当である。
大阪地裁昭和56年2月25日判決(税務訴訟資料116号318頁)。控訴審の大阪高裁昭和57年9月3日判決も同旨。事務運営指針第1の1(5)はこの考え方を明文化したものです。逆に、相続人がその財産の存在を知らなかった場合(昭和62年7月6日裁決)や、
被相続人から「申告不要」と言われていたが、調査で指摘されると直ちに認め、発見を防ぐ積極的措置もなかった場合(平成28年4月25日裁決)は、要件を満たしません。
相続開始の直前に引き出された現金は、相続開始時に残っていれば相続財産です。
その申告漏れが重加算税になるかは、現金の存在を認識していたか、税理士に対する説明の内容、使途についての虚偽説明の有無で分かれます。
相続開始前7年以内(令和6年1月1日以後の贈与から段階的に延長。令和8年12月31日までの相続については3年)の贈与財産は、課税価格に加算されます(相続税法19条)。
加算漏れは「課税価格の計算の基礎となる事実」の申告漏れですが、贈与の事実は預金の記録から把握できることが多く、
相続人が税理士に虚偽の説明をした事情がなければ過少申告加算税にとどまります。
公表裁決では、加算漏れと贈与税の無申告について過少申告加算税・無申告加算税が課され、相続人自身の加算漏れについては「正当な理由」も認められなかった例があります(令和3年9月17日裁決。ただし、他の相続人の加算漏れによって増加した税額部分には正当な理由が認められています)が、
加算漏れ自体を理由に重加算税を認めた公表裁決は確認できていません。
| 場面 | 結論の方向 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自分は申告に関与せず、隠蔽財産の存在も知らなかった | 及ばない。相続人ごとに判定される | 昭和62年7月6日裁決 |
| 共同相続人の一人に遺産の調査・申告手続を委任していた | 受任者の隠蔽行為が及ぶ(具体的認識を欠いていても) | 平成16年3月11日裁決、東京地裁平成18年9月22日判決 |
| 母に委任していたが、自己名義の預金が相続財産であることを認識しながら税理士に告げなかった | 受任者の選任・監督に過失がないと認められる特段の事情もなく、及ぶ | 平成27年10月2日裁決 |
| 母に委任していたが、母自身に隠蔽仮装がない | 委任者にも隠蔽仮装なし | 令和4年6月24日裁決(同日の株式ノートの件とは別の裁決) |
| 税理士が納税者に無断で隠蔽仮装を行った | 納税者が認識し又は容易に認識でき、是正できたのに防止しなかった場合のみ同視 | 最高裁平成18年4月20日判決 |
他の相続人の申告漏れは、自分の本税と過少申告加算税には影響する 重加算税は相続人ごとに「その者の不正事実に基づく部分」だけが対象ですが(事務運営指針第3)、相続税は総額を法定相続分で計算してから各人に配分する仕組みのため、
他の相続人の申告漏れ(隠蔽の有無を問わず)があると、自分の取得財産に変動がなくても本税と過少申告加算税が増えます。
他の相続人の生前贈与の加算漏れによって増加した税額部分について「正当な理由」を認め、過少申告加算税の一部を取り消した裁決があります(令和3年9月17日裁決)。
一方、相続人間に争いがあり相続財産の全容を知り得なかったことは、無申告の「正当な理由」には当たらないとされています(相続税の過少申告加算税・無申告加算税の事務運営指針第2の1注)。
相続税の無申告事案で重加算税(40%)が課されるには、「当初から申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」が必要です。
公表裁決では、税務署から送られる「相続についてのお尋ね」に一部の財産だけを記載して「申告不要と思う」と回答した事案について、
お尋ね書は概算記載を求める任意の文書であり、その提出は「認識ある無申告」と同等で無申告行為とは別の隠蔽仮装行為とはいえないとして、重加算税が取り消されています(平成26年4月17日裁決、令和元年12月18日裁決)。
調査時の虚偽答弁や香典メモの破棄があっても、調査時点の「とっさの行動」と評価され、直ちに事実を認めて期限後申告に応じたことから取り消された例もあります(平成28年3月30日裁決)。
相続税法19条の2第5項・6項により、配偶者が行った隠蔽仮装行為に基づく財産は、配偶者の税額軽減の計算上、課税価格に含まないものとして扱われます。
他の相続人だけが行った隠蔽は、配偶者の軽減には影響しない構造です。
小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)には、これに相当する隠蔽仮装財産の除外規定はありません(別途、期限内申告要件・分割要件などがあります)。
公表裁決の事実関係を教材用に整理したものです。
個別の事案では、ここに書かれていない事実が結論を変えることがあります。
相続人は、被相続人名義の投資信託について四半期ごとに取引残高報告書を受け取っていた。
名義変更・遺産分割協議・協議書作成の各段階で残高証明書を税理士に渡す機会があり、税理士から資料提出の指示も受けていたのに渡さず、提出した資料が相続財産のすべてであるかのように装って申告書を作成させた。
財産の存在を確実に認識していたことに加え、税理士の資料要求に対する不提出は「必要資料等を秘匿した」特段の行動に当たるとして、重加算税を認めた。
「渡さなかった」という外見上は不作為の行為でも、税理士からの具体的な要求があった上での不提出は、積極的な秘匿と同じ評価を受ける。
配偶者が、被相続人の子名義の定期預金11口を相続財産と認識しながら税理士に告げず、これを記載しない遺産分割協議書を添付して申告した。
調査では「生前に贈与されたもの」と根拠のない申述を続けた。
子らも、自己名義の預金が相続財産であることを知りつつ税理士に告げず、遺産の調査・申告を配偶者に委任していた。
申告時の秘匿と、調査時の一貫した虚偽申述が当初からの意図を裏付けるとして、配偶者について重加算税を認めた。
子らについても、受任者の選任・監督に過失がないと認められる特段の事情がないとして隠蔽を認定。
調査時の虚偽答弁は、それだけでは足りないが、申告時の秘匿と結び付くと「隠蔽の態度を貫こうとした」証拠になる。
委任していた共同相続人にも及ぶ。
相続人は、相続開始直後に被相続人名義の定額郵便貯金を複数の郵便局で解約し、新たに開設した自分名義の口座に預け入れた。
相続財産の管理口座には、申告済みの貯金額と一致する金額だけを移し、残りは費消した。
調査時にも当初は他の貯金の存在を否定した。
解約・預け替え・金額合わせという積極的な工作は、当初からの秘匿意図の典型的な外部表出であり、隠蔽に該当するとして重加算税を認めた。
預金の移動経路は金融機関への反面調査で容易に判明する。
「発見を困難にする行動」は、意図の立証を決定的にする。
相続人は、被相続人名義の株式の存在を法定申告期限前に認識していたと推認された。
しかし、税理士が株式の把握に必要な資料を既に所持していたため改めて提出する必要はないと考えた可能性、申告書案に当然記載されていると誤認したまま十分に確認しなかった可能性が否定できず、調査での虚偽答弁を裏付ける証拠もなかった。
財産の存在を認識していただけでは「特段の行動」とはいえないとして、重加算税を取り消した(過少申告加算税は維持)。
「知っていたのに申告しなかった」は、それだけでは過少申告加算税の世界にとどまる。
税理士側が具体的に質問・要求していなければ、秘匿の意図は立証されにくい。
基礎控除額を超える財産があったのに、税務署から送付された「相続についてのお尋ね」に一部の財産のみを記載し、「申告は不要と思う」と回答して申告しなかった。
調査の初日には財産の一覧表を提出した。
お尋ね書は概算記載を求める任意の文書であり、その提出は「認識ある無申告」と同等で、無申告行為とは別の隠蔽仮装行為とはいえない。
意図的な虚偽記載を裏付ける証拠もないとして、無申告加算税相当額を超える部分(重加算税)を取り消した。
無申告の40%重加算税には、無申告そのものとは別の「申告しない意図を外部からうかがわせる特段の行動」が必要。
お尋ねの過少記載だけでは足りないが、理由の如何によっては虚偽記載と評価される余地は残る。
相続開始前3年以内(現行法では最長7年以内)の贈与財産を課税価格に加算せず、贈与税の申告もしていなかった。
贈与の事実は預金の記録から把握可能で、相続人が税理士に虚偽の説明をした事情はない。
相続税は更正処分と過少申告加算税、贈与税は決定処分と無申告加算税。
相続人自身の加算漏れについて「正当な理由」は認められなかったが、他の相続人の加算漏れによって増加した税額部分には正当な理由が認められた。
重加算税は争点になっていない。
生前贈与加算の漏れは課税価格の計算の基礎事実の申告漏れだが、認識・秘匿の証拠がなければ過少申告加算税。
ただし、贈与契約書を隠す、税理士の質問に「贈与はない」と答えるといった事実が加われば結論は変わり得る。
死亡2日前に2,000万円を出金させ、他の預金と同時期に残高証明を入手しながら、税理士に知らせずに申告した(平成17年6月13日裁決)。
被相続人の財産を管理し、現金の存在を知りながら「手元現金は存在しない」旨の書面を税理士に提出した(平成28年4月19日裁決)。
直前の引出金について、被相続人の財産であると十分認識していたとは認め難く、税理士から通帳の提示や入出金の説明を求められなかったため、残高証明書だけを提示した(平成30年3月29日裁決)。
①出金への関与と、現金の所在についての認識。
②税理士から入出金・手許現金について質問や資料要求があったか。
③それに対して積極的に否定したか、虚偽の書面を出したか。
税理士からの残高証明書の入手依頼に応じず貯金を知らせず、現金については虚偽の説明をした(平成23年9月27日裁決。同じ事案で、認識が認められなかった出資金については取消し)。
税理士が資料提出時・申告書作成時に具体的な確認をしていない(令和3年2月5日裁決)。
銀行の担当者の説明により課税対象外と誤解した可能性がある(令和3年3月23日裁決)。
多数の口座のうち1口だけ残高証明書を取らなかったが、失念の可能性が否定できない(令和4年5月10日裁決)。
税理士側の具体的な質問・チェックリストの有無。
相続人の回答が「積極的な否定」か「沈黙」か。
誤解を裏付ける外部事情(金融機関の説明など)の有無。
当該財産が申告済みの口座に入金されているなど、発見を困難にする行動がなかったか。
相続人が「被相続人の財産である」ことと「名義が異なる」ことの双方を認識し、その状態を利用して申告から除外した(事務運営指針第1の1(5)、大阪地裁昭和56年2月25日判決、平成27年10月2日裁決)。
無記名預金の存在を了知していなかった相続人(昭和62年7月6日裁決)。
被相続人から「申告不要」と指示されていたが、調査で指摘されると認め、発見を防ぐ積極的措置もなかった(平成28年4月25日裁決)。
①相続人が「被相続人の財産である」と認識していたか。
贈与を受けたものと信じていた場合は、名義預金の帰属認定の問題であって隠蔽の問題ではない。
②申告時に税理士から名義財産の有無を問われて否定したか。
③調査時に一貫して否認し続けたか、指摘後直ちに認めたか。
長男が遺産の調査・申告手続を一括して行い、被相続人名義以外の財産を除外して申告した。
他の相続人は長男に一任していた。(仮想例)
委任関係があり、受任者の選任・監督に過失がないと認められる特段の事情がない場合は、他の相続人にも長男の隠蔽が及ぶ(平成16年3月11日裁決、東京地裁平成18年9月22日判決、平成27年10月2日裁決の枠組み)。
当該相続人が委任しておらず、隠蔽財産の存在を知らなかった(昭和62年7月6日裁決)。
受任者が税理士の場合は、納税者が隠蔽仮装を認識し又は容易に認識でき、法定申告期限までに是正できたのに防止しなかったか、で判断(最高裁平成18年4月20日判決)。
委任の有無と範囲。
隠蔽財産についての各相続人の認識と認識可能性。
是正の機会があったか。
裁決例を見ると、重加算税の成否は「税理士が何を聞き、相続人がどう答え、それが記録に残っているか」で決まっています。
次の点を申告前に押さえておくことは、相続人を不当な重加算税から守ることにも、逆に隠蔽に加担しないことにもつながります。
| 項目 | 令和4事務年度 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|---|
| 実地調査件数 | 8,196件 | 8,556件 | 9,512件 |
| 申告漏れ等の非違件数(非違割合) | 7,036件(85.8%) | 7,200件(84.2%) | 7,826件(82.3%) |
| 重加算税賦課件数(非違件数に対する割合) | 1,043件(14.8%) | 971件(13.5%) | 1,065件(13.6%) |
| 申告漏れ課税価格 | 2,630億円 | 2,745億円 | 2,942億円 |
| うち重加算税賦課対象 | 388億円 | 375億円 | 444億円 |
| 追徴税額(本税+加算税) | 669億円 | 735億円 | 824億円 |
| 実地調査1件当たりの追徴税額 | 816万円 | 859万円 | 867万円 |
出典:国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」(令和6年12月)、「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月)。
実地調査で非違があった事案のうち、重加算税が課されるのは7件に1件程度という水準が続いています。
法人税調査における重加算税の典型は、二重帳簿・架空の請求書・売上伝票の破棄といった「帳簿書類の操作」です。
相続税と異なり、積極的な隠蔽・仮装行為が存在する事案が大半で、その場合は「特段の行動」の枠組みを経ずに、
①隠蔽・仮装行為の存在(行為についての故意)と②それに基づく申告、の2点で要件を満たします。
分かれ目は3つあります。
第一に、帳簿・証憑の操作があるか、単なる計上時期や経費性の判断誤りか。期ズレや科目の違いは原則として重加算税になりません。
第二に、誰の行為か。代表者・役員・経理責任者の行為は法人の行為ですが、一般従業員や外部の税理士の行為は「同視できる」場合に限られます。
第三に、意図を示す証拠があるか。通謀・日付操作の依頼・内部の指示記録があれば、外形上は期ズレでも重加算税に至ります。
現金売上を帳簿に載せない、代表者の個人口座に入金させる、取引先に水増し請求書を発行させる、実在しない従業員の給与を計上する。
いずれも事務運営指針の不正事実の典型です。
売上の翌期計上・経費の繰上計上は、翌期に正しく計上・支出されていることが確認され、通謀・証憑の改ざんがなければ隠蔽仮装に該当しません(事務運営指針第1の3)。
取引先に期末日以前の日付の請求書を発行させる、工事完了日を偽った報告書を作る。
翌期に支出されていても、通謀や書類操作があれば「仮装」です。
交際費を会議費や福利厚生費に「単に」計上しただけなら、損金不算入の過少申告加算税で終わります。
参加人数を偽った領収書メモを作るなど、科目を偽るための工作があれば話は別です。
私的費用であることを認識して計上したことが立証されなければ仮装ではなく、役員給与としての損金不算入(過少申告加算税)にとどまります。
領収書の改ざんや架空の出張名目があれば該当します。
経理責任者や役員の行為は原則として法人の行為。
一般従業員が私的に金銭を詐取するための独断の仮装は同視されにくい一方、権限内の業務として行われ、上司が是正できたのに放置した場合は同視されます。
法人税で重加算税が課されると、消費税の重加算税、青色申告の承認取消し、認定賞与に係る源泉所得税が連動します。
不正所得金額が更正所得金額の50%を超え、かつ500万円以上であれば、青色申告の承認は取り消され、欠損金の繰越しなどの特典を失います。
売上除外の資金が代表者の手元に残っていれば、法人税法34条3項により役員給与として損金不算入となり、これも重加算税の計算基礎に入ります。
「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日課法2-8ほか、最終改正令和8年6月30日)は、
第1の1で「不正事実」の類型を、第1の3で「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない場合」を、それぞれ具体的に定めています。
この対比が、法人税調査での線引きの出発点です。
| 該当する(第1の1 不正事実) | 該当しない(第1の3) |
|---|---|
|
(1)いわゆる二重帳簿を作成していること (2)次の「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」があること ・帳簿、原始記録、証憑書類、決算書類、勘定科目内訳明細書、棚卸表など決算に関係のある書類を破棄または隠匿 ・帳簿書類の改ざん(偽造・変造を含む)、虚偽記載、相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成、意図的な集計違算その他の方法による仮装の経理 ・帳簿書類の作成・記録をせず、売上げその他の収入(営業外収入を含む)の脱漏または棚卸資産の除外 (3)特定の損金算入・税額控除の要件とされる証明書等を改ざんし、または虚偽の申請により交付を受けていること (4)簿外資産に係る利息収入・賃貸料収入等の果実を計上していないこと (5)簿外資金(帳簿に計上していない収入や、費用の過大・架空計上により帳簿から除外した資金)で役員賞与その他の費用を支出していること (6)同族会社であるのに、株主等の所有株式を架空の者や単なる名義人に分割するなどして非同族会社としていること |
次の場合で、その行為が相手方との通謀、または証憑書類等の破棄・隠匿・改ざんによるもの等でないとき (1)売上げ等の収入の計上を繰り延べている場合において、その収入が翌事業年度の収益に計上されていることが確認されたとき (2)経費(原価に算入される費用を含む)の繰上計上をしている場合において、その経費が翌事業年度に支出されたことが確認されたとき (3)棚卸資産の評価換えにより過少評価をしている場合 (4)確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等や寄附金のように損金算入について制限のある費用を、単に他の費用科目に計上している場合 |
第1の3は「翌期に計上・支出されていれば無条件で重加算税にならない」という規定ではありません。
審判所は、この定めは「経費の繰上計上が意図的であることを示す事情を例示し、こうした事情のない繰上計上を重加算税の対象としない旨を明らかにしたもの」であり、
「経費の繰上計上が意図的であることが内部資料その他のものによって明らかであると認められるような場合には、事実を仮装したものとして重加算税を賦課するのが相当」としています(平成26年10月28日裁決)。
つまり、通謀や改ざんがなくても、「当期の損金にするよう」指示したメールや決裁記録が残っていれば、該当し得ます。
国税通則法68条は隠蔽・仮装の主体を「納税者」としています。
法人の場合の「納税者」について、審判所は次のように整理しています。
法人が納税義務者である場合、その「納税者」とは、代表者個人ではなく、代表者を頂点とする有機的な組織体としての法人そのものであるから、法人の意思決定機関である代表者自身が隠蔽又は仮装を行った場合に限らず、法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき、法人の業務として行った隠蔽又は仮装であって、全体として、納税者たる法人の行為と評価できるものについては、納税者自身が行った行為と同視され、通則法第68条第1項の重加算税の対象となる。
令和元年6月20日裁決の法令解釈| 行為者 | 結論の方向 | 判断のポイント・裁決例 |
|---|---|---|
| 代表者・実質的経営者 | そのまま法人の行為 | 代表権のない会長など実質的支配者も同様に扱われます(平成5年10月12日裁決、令和2年9月4日裁決)。 |
| 役員(専務・常務など経営に参画する者) | 代表者が知らなくても法人の行為 | 常務取締役の架空仕入計上(平成2年8月23日裁決)。専務取締役が取引先に虚偽請求書を発行させた行為(令和元年6月20日裁決。経理や申告事務に関する行為に限られず、経理知識の有無も結論を左右しないとしています)。 |
| 経理責任者・経理部門の課長等 | 特段の事情がない限り法人の行為 | 「申告行為に重要な関係を有する部門に所属し、相当な権限を有する地位に就いている者」の行為(平成7年12月14日裁決、平成15年12月16日裁決)。横領目的であっても同視された例があります(平成11年7月1日裁決)。 |
| 一般従業員 | 地位・権限、行為態様、管理監督の程度を総合考慮 | 権限の範囲内で法人の業務として行った仮装で、上司が把握・是正できたのに放置した場合は同視(令和6年1月10日裁決)。 経営にも経理にも関与しない一使用人が私的に金銭を詐取するための独断の仮装は同視されない(令和元年10月4日裁決)。 法人の商品を窃取して個人名義で売却した従業員の行為は、法人に利益がなく、法人の取引でもない(令和元年5月16日裁決)。 |
| 外部の税理士・記帳代行業者 | 最高裁平成18年4月20日判決の基準 | 法人が隠蔽仮装を認識し又は容易に認識でき、法定申告期限までに是正できたのに防止しなかった場合に同視。 意思の連絡があれば当然に該当(平成17年9月28日裁決)。 資料提供・確認を怠って数年間任せきりにしていた場合に同視された裁判例もあります。 |
従業員の横領と益金計上 従業員の横領による損害賠償請求権は、原則として損失と同時に益金に計上されます。
この計上漏れ自体は隠蔽・仮装ではなく、過少申告加算税の問題です。
従業員の不正が法人の重加算税につながるのは、その従業員の仮装行為(架空請求書など)が法人の行為と同視される場合に限られます。
法人税調査で問題になりやすい行為を、判定の方向と分かれ目で整理しました。
「該当」は重加算税が課される方向、「非該当」は過少申告加算税にとどまる方向、「事実次第」は分かれ目となる事実で結論が変わるものです。
| 行為類型 | 判定 | 分かれ目・根拠 |
|---|---|---|
| 売上除外(現金売上の不記帳、代表者個人口座への入金) | 該当 | 指針第1の1(2)(5)。ただし売上高の0.2%弱の単発の計上漏れで、領収証の発行失念と説明でき、規則性・共通性がない事案は取消し(令和5年12月4日裁決)。質問応答記録書の申述が矛盾し信用性が否定された事案も取消し(令和7年9月24日裁決)。 |
| 架空仕入・架空外注費・架空人件費 | 該当 | 指針第1の1(2)「相手方との通謀による虚偽の証憑書類の作成」。役務提供の実体がない支払手数料でも、代表者が「何らかの役務提供があり対価を払う必要がある」と認識していた可能性が否定できなければ取消し(令和2年9月4日裁決)。 |
| 期ズレ(売上の翌期繰延べ・経費の繰上計上) | 原則非該当 | 指針第1の3(1)(2)。取引先に期末日以前の請求書発行を依頼した、工事完了日を偽った報告書を作った、上層部の「当期の損金にする」指示が残っていた場合は該当(平成10年12月2日、平成20年1月11日、平成26年10月28日、令和6年1月10日の各裁決)。 |
| 棚卸資産の除外・過少計上 | 除外は該当、評価誤りは非該当 | 在庫表からの意図的除外は指針第1の1(2)。評価換えによる過少評価は第1の3(3)。現場からの資料不備による計上漏れで翌期の売上に計上されているものは仮装ではない(昭和48年12月13日裁決)。 |
| 役員・代表者の私的費用の経費計上 | 認識と書類操作で分かれる | 私的費用と認識して計上したことの立証がなければ仮装ではなく、役員給与の損金不算入・過少申告加算税(平成27年7月28日裁決、平成30年9月21日裁決)。旅行社に架空の国内旅行書類を作らせた事案は仮装(昭和59年3月31日裁決)。 |
| 交際費の科目偽装(会議費・福利厚生費計上) | 「単に」なら非該当 | 指針第1の3(4)。参加人数を偽った領収書メモ、実態と異なる用途の架空書類があれば虚偽記載として該当し得る。給与を外注工賃にあえて科目仮装した事案は隠蔽認定(平成13年3月30日裁決)。 |
| 従業員の横領・不正(架空経費で着服) | 地位・権限・管理体制 | 前掲2参照。同視を認めた例(令和6年1月10日裁決)と否定した例(令和元年10月4日裁決、令和元年5月16日裁決)。 |
| 代表者の行為 | 該当 | 原則そのまま法人の行為(平成5年10月12日裁決)。 |
| 外部の税理士・記帳代行の不正 | 同視の可否 | 最高裁平成18年4月20日判決の基準。意思の連絡があれば該当(平成17年9月28日裁決)。第三者が作成した虚偽の申告書を同視できないとした例(平成30年9月3日裁決)。 |
| 帳簿書類の破棄・隠匿 | 該当 | 指針第1の1(2)。 |
| 帳簿書類の単なる提示拒否 | 重加算税ではない | 通則法65条4項・66条5項の帳簿不提示による加算税の加重(10%・5%)と、法人税法127条1項1号の青色申告承認取消しの問題。 |
| 簿外預金・簿外資産の利息・配当 | 該当 | 指針第1の1(4)(5)。海外送金した資金の運用益の不計上(平成元年10月6日裁決)。ただし代表者への貸付金の発生原因に隠蔽仮装がなければ、その利息の計上漏れも仮装ではない(平成30年9月21日裁決)。 |
| 貸倒損失・評価損の不正計上 | 事実の仮装か、法的評価の誤りか | 実在しない債権の貸倒れ、回収可能性を示す書類の隠匿は該当。債権放棄を貸倒損失と処理したが寄附金該当を認識していたとは認められない事案は取消し(平成30年5月31日裁決)。 |
| 海外取引・ペーパーカンパニーを介した利益移転 | 仮装があれば該当 | 外国法人に水増し請求書を発行させキックバックを受けた事案、輸出売上の書類を捨て借入金として計上した事案は不正(国税庁調査事績の事例)。外国子会社合算税制や移転価格税制の適用漏れは原則として過少申告加算税。 |
| 無申告法人 | 特段の行動があれば40% | 借名口座で売上を回収し書類を一切破棄した事案は該当(国税庁事例)。帳簿を作らず数期無申告でも、多数の通帳・資料を調査で提示していた事案は「当初から申告しないことを意図し、その意図を外部からうかがい得る特段の行動」がないとして取消し(令和4年7月1日裁決)。 |
| 調査時の虚偽答弁・虚偽資料の提出 | それだけでは該当しない | 申告時点の隠蔽仮装が必要。ただし申告時の意図を推認する間接事実として、他の証拠と総合して評価される(平成27年10月30日裁決など)。 |
| つまみ申告(帳簿はあるが所得の一部だけ申告) | 殊更過少なら該当 | 最高裁平成6年11月22日判決。毎月の収入を一律に圧縮した事案は該当(平成9年11月26日裁決)。過少な試算表や収支内訳書を作っただけでは「申告行為そのもの」であり、別の隠蔽仮装行為が必要(平成29年5月29日裁決、平成27年7月1日裁決)。 |
| 連動先 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 消費税・地方消費税 | 法人税について不正事実があり重加算税を課す場合、その不正事実が影響する消費税の増差税額にも重加算税。 課税売上げを免税売上げに仮装する、簡易課税で高いみなし仕入率を装うなど、消費税固有の不正事実もあります。 | 消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)第2のⅣ |
| 役員給与の損金不算入 | 事実を隠蔽・仮装して経理することにより役員に支給する給与は損金不算入。 売上除外金や架空経費の資金が代表者に帰属した場合は、いわゆる認定賞与として法人税の重加算税の計算基礎に入ります。 | 法人税法34条3項 |
| 源泉所得税 | 認定賞与に係る源泉所得税は不正事実に基づく不納付として重加算税の対象になり得ますが、法人税で重加算税の対象とされた所得金額に達するまでの金額については、源泉側では重加算税とせず不納付加算税(10%)にとどめる調整があります。 | 源泉所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)第1の4 |
| 隠蔽仮装に係る費用等の損金不算入 | 隠蔽仮装行為に要する費用・損失は損金不算入。 隠蔽仮装行為に基づいて申告した(または無申告の)事業年度の原価・費用・損失は、帳簿書類等で取引が明らかな場合等を除き損金不算入(令和4年度改正)。 重加算税・重加算金・延滞税等も損金不算入です。 | 法人税法55条1項〜4項 |
| 青色申告の承認取消し | 帳簿書類に取引の全部または一部を隠蔽・仮装して記載した場合は取消事由。 運用基準は、不正所得金額が更正所得金額の50%相当額を超えるとき(不正所得金額が500万円未満のときを除く)。 過去7年以内に取消しがなく、不正所得が500万円未満で今後の適正申告の申出があるときは見合わせる扱いがある一方、二重帳簿の作成や、基準をわずかに下回る過少申告を毎期続けている場合などは基準未達でも取消し相当として個別に処理されます。 | 法人税法127条1項3号、法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)3・5 |
| 法人事業税の重加算金 | 法人事業税には国税と同じ構造の重加算金があり、過少申告加算金に代えて35%、不申告加算金に代えて40%が課されます。 法人住民税(法人税割)には加算金の制度はありません。 | 地方税法72条の47 |
| 役員等の第二次納税義務 | 令和6年度改正で、偽りその他不正の行為により国税を免れた株式会社等について、その財産から徴収しきれない場合に、当該行為をしたときの役員等が一定の範囲で第二次納税義務を負う制度が整備されました(令和7年1月1日以後)。 法人の不正事案で、代表者個人の財産に徴収が及び得る点に注意が必要です。 | 国税徴収法(令和6年度改正) |
| 使途秘匿金課税 | 相手先の氏名・住所・事由を帳簿に記載していない支出は、支出額の40%が法人税額に加算。 帳簿書類の破棄・改ざん等があれば、この追加税額にも重加算税。 | 租税特別措置法62条、重加算税指針第1の2 |
| 電子取引データの隠蔽仮装 | 電子取引データに記録された事項に関し隠蔽・仮装があった場合、重加算税に10%加重。 令和7年度改正で、一定の基準に適合するシステムで保存する「特定電磁的記録」は対象から除外(令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税から)。 | 電子帳簿保存法8条5項 |
公表裁決と国税庁の調査事績の事例を教材用に整理したものです。
個別の事案では、ここに書かれていない事実が結論を変えることがあります。
多額の保険金収入があった事業年度に、経営層が「関連する費用は翌期に持ち越さず当期の損金にする」と指示した。
担当者は業者に期末日以前の日付の請求書の発行を依頼し、役務提供が完了していないことを知る決裁者が未払金として計上し、申告した。
費用は翌期に実際に支出されている。
通常の手続(役務完了後に請求書を受領)と異なる処理を意図的に行ったものであり、故意に事実をゆがめた「仮装」に該当するとして、法人税の重加算税を認めた。
指針第1の3(2)の「翌期に支出」があっても、意図性が内部資料で明らかであれば該当する。
「期ズレだから重加算税にはならない」という理解は不正確。
指示の記録・決裁の経緯・請求書の日付依頼が残っていれば、通謀・改ざんがなくても仮装と評価される。
経営に参画する専務取締役が、取引先に内容虚偽の請求書を発行させ、法人がその支払を損金および課税仕入れとして計上した。
代表者はその事実を知らなかった。
法人内部において相応の地位と権限を有する者が、その権限に基づき法人の業務として行った仮装であり、全体として法人の行為と評価できるとして、重加算税を認めた。
経理や申告事務に関する行為に限られず、行為者の経理知識の有無も結論を左右しない。
「社長は知らなかった」は、役員の行為については抗弁にならない。
飲食店を営む法人が、現金売上の一部について売上伝票を破棄し、レジの記録と帳簿を突合できない状態にして売上を除外した。
除外した資金は代表者が私的に費消していた。(国税庁の公表事例に基づく仮想例)
帳簿書類の破棄と収入の脱漏(指針第1の1(2))、簿外資金による役員賞与(同(5))に該当。
法人税の重加算税に加えて、消費税にも重加算税が連動し、代表者への認定賞与は法人税法34条3項で損金不算入。
不正所得が更正所得金額の50%超・500万円以上なら青色申告の承認も取り消される。
法人税調査における最も典型的な不正事実。
国税庁の統計でも、バー・クラブ、その他の飲食、外国料理が不正発見割合の上位を占め続けている。
代表者が業界の青年団体の会合に出席するための旅費・日当を、法人の旅費交通費として計上していた。
金額は実額どおりで、領収書や旅費規程の改ざんはなかった。
事業遂行上必要な費用ではなく代表者に対する給与と認定されたが、処分は更正処分と過少申告加算税(源泉所得税は不納付加算税)にとどまり、重加算税は課されていない。
経費性の判断誤りは「仮装」ではない。
役員給与の損金不算入(法人税法34条)として過少申告加算税の問題になる。
工事代金の一部を当期の売上に計上せず、売掛金の過入金として処理していた。
また、輸入仕入の一部を誤った事業年度の損金に算入していた。
いずれも翌期に正しく計上・支出されており、取引先との通謀や書類の改ざんはなかった。
指針第1の3(1)(2)により「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等」に該当せず、過少申告加算税にとどまる。
期ズレの原則形。
CASE 1との違いは、意図を示す指示・依頼・日付操作の痕跡があるかどうか。
兄弟会社の債務を引き受け、その債権を放棄した金額を貸倒損失として計上した。
後に寄附金に該当するとして修正した。
税負担の軽減を目的として整理の方法を検討していた事実はあったが、支援に「相当な理由」があると認識していた可能性があり、関与税理士からも寄附金該当の指摘は受けていなかった。
寄附金に該当することを認識していたとは認められず、法的評価の誤りであって隠蔽・仮装はないとして重加算税を取り消した。
「節税目的で検討していた」ことと「事実を仮装した」ことは別。
事実そのものを偽っていなければ、法的評価の誤りは過少申告加算税の問題。
一使用人が、付与された権限の範囲内で、工事業者と通謀して虚偽の工事完了日を記載した工事完了報告書を作成した。
工場長・課長は工期内に工事が未完成であることを認識でき、是正措置が可能だったのに、現場確認を従業員に任せきりにしていた(令和6年1月10日裁決)。
課長職の従業員が、妻名義の会社に架空外注費の請求書を作らせて法人から金銭を詐取し、ゴルフや飲食に費消した。
経営にも経理にも関与せず特別な権限もない一使用人の、業務の一環ではない私的詐取目的の独断行為で、発覚後に懲戒解雇・返還請求をしている(令和元年10月4日裁決)。
①経営・経理への関与や特別な権限があるか。
②法人の業務の一環として権限内で行ったか、私的詐取目的の独断か。
③上司・法人が不正を把握し、法定申告期限までに是正できる状況にあったのに怠ったか。
④発覚後の対応(懲戒解雇・告訴・損害賠償請求)。
代表者が個人名義のクレジットカードで支払った飲食代を法人の費用に計上していた。
調査時に「全て個人的な飲食」と申述したが、取引先の従業員との飲食が含まれるなどの事実があり、私的な費用であることを認識しながら計上したとは認められないとして重加算税を取り消した(平成30年9月21日裁決)。
従業員の慰安旅行が実際は海外旅行であるのに、国内旅行とする架空の書類を旅行社に作成させて福利厚生費に計上し、調査でも虚偽の説明をした(昭和59年3月31日裁決・源泉所得税)。
①私的費用であることの認識の立証。調査時の概括的な申述だけでは信用性が否定されることがある。
②宛名・人数・内容を偽った領収書メモや架空書類の作成があるか。
③取引先との会食など、事業関連性を示す客観資料があるか。
総勘定元帳等を作成せず数期無申告。代表者は「利益が出ており申告が必要」と認識し、「書類は破棄した」と申述したが、調査では多数の通帳や収入・支出の資料を提示していた。
「当初から申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」とは認められず、重加算税を取り消した(令和4年7月1日裁決)。
申告義務を認識しながら、現金売上を代表者の口座に、カード売上を知人の口座に入金させ、書類を破棄して全売上を隠蔽し無申告。
関与税理士に何も伝えず別の代表者を立て、借名口座で売上を回収した事案も(国税庁調査事績の事例)。
帳簿不作成・無申告という不作為に加えて、口座の借名化、書類の計画的破棄、取引先への虚偽依頼など、意図を外部から推認させる積極的事情があるか。
調査時に通帳・資料を提示していると、むしろ隠蔽の意図が否定される方向に働く。
当期中に納品が完了した取引の売上を翌期に計上していた。
翌期には計上されているが、決算直前に得意先へ「請求書の日付を翌月にしてほしい」と依頼したメールが残っていた。(仮想例)
翌期に計上されているという事実(指針第1の3(1))だけでは救われず、日付操作の依頼が「相手方との通謀」に該当するため、仮装として該当する方向に傾く。
取引先に当期中の納品があったかのように装う書類を発行させた事案(平成10年12月2日裁決)、工事未完了を認識しつつ課税期間中の請求書発行を依頼した事案(平成20年1月11日裁決)の考え方が及ぶ。
依頼の記録の有無と内容。
得意先側の証憑(納品書・検収書)の日付と実際の納品日の食い違い。
同様の処理が複数期にわたって繰り返されているか。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
| 実地調査件数(法人税) | 約5万9千件 | 約5万4千件 |
| 非違があった件数 | 約4万5千件 | 約4万2千件 |
| うち不正計算があった件数 | 約1万3千件 | 約1万3千件 |
| 不正発見割合(調査件数に対する割合) | 22.3% | 23.5% |
| 申告漏れ所得金額 | 9,741億円 | 8,198億円 |
| うち不正所得金額 | 2,775億円 | 2,980億円 |
| 追徴税額(法人税) | 2,102億円 | 2,187億円 |
| 追徴税額(法人税+消費税) | 3,197億円 | 3,407億円 |
| 源泉所得税の重加算税適用件数(非違件数に対する割合) | 約4千件(約18%) | 約4千件(約19%) |
出典:国税庁「令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和6年11月)、「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)。
不正発見割合の高い業種は、令和6事務年度で1位バー・クラブ62.3%、2位その他の飲食45.2%、3位外国料理40.2%、4位美容34.5%、5位大衆酒場・小料理34.4%です。
令和6事務年度からは、AIによる不正パターン判定を活用した調査対象の選定と、外国税務当局との情報交換の活用が特徴として挙げられています。